スカートを縫う時は指で引っ張って寸法を確認し、縫いズレを防ぐ

Aラインワンピースは裁断に注意 アパレルの裏話

こんにちは。「ずぼらでパリコレ」洋裁が自宅で学べる365回講座の小川タカコです。

洋裁が自宅で学べる365回講座も316回目になっています。
私は、教材を販売する前から、言いたくてたまらなかったエピソードがありました。

フレアースカートでマダム花井さんに大目玉を食らったことは、こちらで書いたのですが…。

余りにも大目玉が厳しかったので、その時の失敗がどうして起きてしまったのかを、考え続けていました。

マダム花井さんからもらった大目玉が、一転、私の窮地を救う希望となったお話です。
縫いズレや、バイヤス地っが上手く縫えないとお悩みの方は、ぜひご覧ください。

Aラインワンピースを生産する現場で起きた、裁断での間違いは大変なことになるという、実際のエピソードをお話します。

今回の記事に書いてあること。

  1. アパレルメーカーには「生産」という部署があり、工場の割り振りなど行っています。
  2. 生産から、知らない工場の焦げ付いている仕事のヘルプを依頼してきた時に
  3. Aラインワンピースには、最悪の仕事ぶりが顕著であった、その原因と理由
  4. その結果、サンプルの修業を最初にしたアトリエで、縫えなかった理由までも理解できた

Aラインワンピースは、女性らしさを表現する永遠のデザイン

私が六本木にあるメーカーとお付き合いしていた頃のことです。
そのメーカーとは8年、いやもっと。。。

15年くらいのお付き合いになったのかと。
毎年、分厚い納品書が来て、それを2冊、3冊と消化するほどの量を納品してました。

そのメーカーさんはオフィスレディーファッションというか、お仕事が終わった後のディナーのおしゃれ着をメインとしたブランドでした。

縫う側にとっては、ブランド名よりも会社さんの名前しか頭に入らず、今となってはブランド名の一個も記憶にありません。

企画室のパタンナーさんがサンプルのやりくりをしている会社さんもあれば、その六本木の会社さんのように「生産」と呼ばれる男性が仕切っているところもあります。

生産の主な仕事は、サンプルや量産の両方をやりくりして、営業に橋渡しをするポジションです。

  • 新規シーズンにどんなものを作るか、デザインを決める会議にも出たり、
  • サンプル屋のおばちゃんたちのリストを持って、誰に何を縫わせるのかやりくりをしたり、
  • 量産工場で何らかのトラブルが起きた場合のヘルプなどもします。

押しが強い性格の方が適任で、個性派が多いです。

私が最初にアパレルで勤めたときの生産の部長さんを、原宿のマンションオフィスで見かけたときは漫画かドラマかと目を疑いました。

あちらは硬直している私に気が付かず、悠然と悠々自適なラフなスタイルでアパレルオフィスへ入っていき、(生産って、辞められないのかも?)と思ったりしたものです。

メーカーの生産は、ゴリ押しが上手

生産のやる仕事のメインは、デザインにあった素材を揃えて出荷する管理部門なのですが、とにかくアパレルは競争の世界ですから、当然、管理する人が遠慮していたら仕事になりません。

横車を平然と押しまくって、何とも思わないくらいの度胸と、心臓の持ち主でなければ務まらない職です。

プリーツのメーカーの生産も、2週間で247着縫えという電話をよこしてくるくらい、大胆な人でしたが、六本木のメーカーの生産担当者は、ジワジワ系でした。
「え?検針機って、縫った側が責任もって当然でしょ?縫ったんだから、そこは自分で買うよね?
という一言でぐうの音も出させず、数万単位の機材を揃えさせるなんてお手の物です。

ヤンチャな性格に頭脳をくっつけたような人で、言い出したら絶対にYESと答えるしかないところまで、グイグイやられてしまいます。

サンプル屋の人はアパレルメーカーへ営業する人が少なかった

サンプルを縫う人間が、けっこうなお歳であるということを、こちらにも書いたので、知っている人の方が多いと思うのですが、もしもまだ読んでいない方は、読んでみてください。

サンプル屋は自宅で荷物を受け取って、縫い上げて発送をトラックに乗せてお終いです。
「出来る?」と1本の電話がきてOKと言えば、最初の話よりも多め設定できちゃったよー!くらいの感じでした。

家から出ないし、遊びも都会までいくのもなぁという、引きこもりさんが多いのもフリーランスならではです。

でも、本当にそうだろうか?と感じてました。

私は仕事を出す側にも立っていたので、やはり顔を見せて今回のサンプルはどうであったかなど、報告したいと考えたのが始まりでした。

引きこもりの最たるもの。
電話もバンバンかけて、ガンガン露出もするんだけど、家からは基本出ないという、お決まりなパターンです。

仕事が終わると、小さい子供たちとも遊んでやらないとならないし、納期の厳しい仕事が終わった後に、メイクしてメーカーに挨拶に行くなんて、それはもう過酷で、当時は信じられないほど痩せていました。
痩せてるというよりも、やつれていたのかもしれません(笑)

集中すると家に中の事が出来ないので、仕事が終わるや否や、家事と子供の遊びに付き合って、ヘトヘトの体で公園の直射日光が黄色に見えるほど眩しかったり…。

そういう状況なので、家からお化粧をし一張羅を着て、東京まで営業に行くのは、ちょっとそっとではないほど骨折れでした。

どうしても行かなきゃいけないのか?と自問しては、【行くしかないんだから!】と自分にゲキを飛ばして、心で泣いてお出かけしていました。

 

量産工場で焦げ付いているAラインワンピースの仕事を請け負った背景

その六本木にあるメーカーはちょっと変わっているシステムで、企画室のパターンナーとサンプル屋を直接に繋がないスタイルでした。

生産の人間が窓口になり、企画室とは一切遮断されているのです。
営業に行って話をするのも、生産の人間とする、徹底ぶりで、情報漏洩やサンプル屋の引き抜き対策だったのかもしれません。

デザイナーさんやパタンナーさんが転職すると、次の会社からも注文が取れるので、丁寧に仕事して納期厳守していると、けっこう回りまわってお仕事にありつけることもあったからです。

ともかく縫いを理解してない人を相手にした営業は、とっても気が重く、頭のいい人だったため毎回何か宿題が出され、私の苦手な人物でした。

サンプルを縫う上で質問が出て連絡しても、その生産の男性が電話口に出てくるため、お察しモードは0、秒単位でアタックしているときに、冷や汗を何度かいたことでしょう。
縫いを知らないくせに電話口に出られるほどに、生産が話をしちゃう程度に熟知しているのですから、よりやり難いわけです。

サンプルを縫うのに必要な情報を持っているパタンナーさんと、直に話が出来ないのですから、極まってしまうことも少なくなかったのです。

宮城に行ってからだから、2005年くらいのことでしょうか…。

そのやり手の生産(この後 Tさんと書きます)から電話がかかってきました。
こういうときは虫が働くもので、妙な予感にそわそわするのが不思議なくらい当たるものです。

「Tさんがこんな妙な時に電話してくるってことは、ろくでもない話じゃないんですか?」

私も、ずけずけ言います。
こういう業界は大きな声で、しかも早口で、ずけずけ言わないと仕事が取れないスピードの世界です。

今も多分、業界のこの気質は変わらないのではないでしょうか。
早口。感情のリアクションも大きめです(笑)

当時は今よりもガンガン押す姿勢がアパレル業界の基本姿勢でした。
もちろん、そうじゃない人もたくさんいますが、郷に入っては郷に従えです。

早口で誰もが、まくしたてるようにしゃべります。
その方が早いし、そうじゃなくても展示会も迫り、鬼の形相で徹夜が続いている状態で、誰もが秒単位を争っている状態でグズグズとしゃべる人は、受け入れられないし疎んじられてしまいます。

実際に時間がないのに、グズグズしゃべるなんて焦っているときには、出来っこないくらい追い詰められています。
真剣になればなるほど、声もデカくなるし、早口で必要なことだけを伝えるようになっていきます。

メーカーとの交渉は着地点のずっと手前で限界と主張する

生産のTさんが言うには、「工場で焦げ付いてるのがあるんですよねぇ…」

私:「うっわぁ。。。この電話、聞かなかったことにして、この電話、切っていいですか?」
被せるようにこっちも言って、早々に感情面での嫌悪を、はっきりと表明します。

言いなりになったら、思うように使われていい単なるコマであると認めているようなものです。
バブルははじけてしまったけれども、不況の波はまだ勢いのあるアパレルにまで及んでいなかった頃で、バンバン作って売る時代の名残がまだ残っていました。

着地点は互いに探り合っていく中で、決めていくのが基本ですが、嫌悪丸出しにして、その仕事を請け負いたくない態度を表明するに限る仕事があります。

手垢の付いた仕事、焦げ付いた仕事です

Tさんの話を聞いて、すっかりやる気をなくしました。

T:「裁断してあるんで、そのまま縫えばいいだけだから。小川さんなら全然可能な納期を取ってあるんで、今回だけ助けてくださいよー。次の仕事を入れられなくて」

私:「じゃあ、その次の仕事を丸っとこっちにくださいよ。やりかけたのなんか、やりにくいに決まってんじゃないですかー!裁断してないのがいいです!

Tさん:「そう言わないで。お願いですから」
妙に低姿勢であるのが、より気味悪くて、それだけに行き詰っているのを感じ、警笛は鳴りっ放しです。

Aラインワンピースは焦げ付いているどころじゃない、切迫した危機的状況にあった

もちろんのこと、この低姿勢には、【裏がある】のでした。

その裏とは。
百貨店に納品する期日に切迫して座礁、というとんでもない爆弾を抱えてました。

生産の現場では、縫製工場が縫い上げたものを、プレス屋という仕上げアイロンをかけてくれるところへ納品します。

プレス屋が縫製でくちゃくちゃになった広い範囲の所を、丁寧に仕上げアイロンをしてくれて、シワひとつない美しい状態で店頭に並び、皆さんの手にするところとなる仕組みです。

シャツ

仕上げアイロンは、内部から蒸気を噴出させてパリッと仕上げます。

縫製工場は自分が縫ったところはアイロンしますが、広い面積はアイロンしません。

広い面積は、中から蒸気が吹き出す仕組みのバキュームを使って、ふっくら仕上げた方がいいからです。
クリーニング屋さんの持っているもので、皆さんもテレビや実際にクリーニング店で見たり、着せて乾かすものがCMで紹介されたりしていますよね。

縫製工場が持つバキュームは、吸い込む仕組みで、縫い目を安定させるのに強力なパワーを持っています。
その半面、縫い目にアイロンをかければ、裏側のロックミシンの形まで表側に響いてしまうリスクがあります。

ダーツ
ダーツもこのように跡がついて痛むので、アイロンを傾けて折り痕が付かないように逃がしてあげる必要があります。

この動画は洋裁が自宅で学べる365回講座の抜粋です。

アイロンは縫製工場の上からかけるのではなく、クリーニング屋の持つ、着せた中からパンパンに噴出させるのが一番効果的です。

仕上げアイロンをプレスと呼びますが、プレスをしない製品は、見劣りが甚だしくて、商品価値がひどく悪くなります。
プレス屋さんは年中、納期が差し迫ったもので争っているので、割り込みなんて出来ない状況にあります。

百貨店さんに納品するはずのものが、納品日を過ぎてしまったら会社ごと信用が落ちてしまうギリギリのところに、Aラインワンピは陥っていたのです。

アパレルメーカーと妥協ではなく、落としどころへいかに着地させるかがキモ

そのプレス屋へ持ち込む時間が、全く取れないところまで押されてしまって、どうしても後がないんだと泣きつく電話を私は取ってしまったのでした。
買い物にでも出ていればよかったし、電話番号表示するモデルであれば、当然スルーすべき電話でした。

私:「えーー。。。。本当に。今も仕事を持ってるのに、いきなり知りもしないところのヘルプなんてやるの嫌ですよーーー!」

着地点はあって、ここまで来て請け負わないという事は出来ません。
サンプル屋には掟のような不文律があって、依頼された仕事を全部断ったら2度と仕事が来ないという縛りがあります。

関係性を継続するために、貸しを作るのはすごく大切なことですが、言いなりになって請けたくない仕事をいっぱいやらされるのは勘弁してほしいのです。
やるのは仕方ないとしても、その枚数が問題になってきます。

互いの主張をすり合わせて、枚数を最初の半分以下の30着に減らすことができ、心配しながら荷物の到着を待つことにしました。
結局のところ、Tさんも言った枚数が全部が私が請け負ってくれるとは思ってもないはずで、そこなお互い様ですね。

お互いに多めの枚数を言い、全然入らないと押し問答して、着地点に収めます。
駆け引きは動揺せずに、リアクションで強調していきます

だから、結論としてリアクション強め、声もデカくなり、早口にもなりますね(笑)

Aラインワンピースは、予想以上に救いがたい状況に陥っていた

翌日に荷物が届いて、私の烈火の焔が燃え上がったのは言うまでもありません。

私:「これ!いったい何なんですか?」

裁断したもの全部のパーツが、すべてダメ。全損レベルでした。
百貨店に出す商品で、売値は12万円。Aラインワンピースのイタリー製の上質なヘリンボーンの素材です。

美しい6枚はぎのAラインワンピが、完全に”こじらせて”いました。

いったい、どういう裁断をしたのか?
こんなの、どうやったら縫えるんすか?

無理やり突っ込まれたものが最悪だったから、怒りが収まらず、沸騰するほど激怒しました。

Tさん、のうのうと 「じゃあさ、小川さん。その工場へ直接電話してよ」と言い出す始末です。

怒ったところで、縫いを知らないTさんにいくら事情を聞いても、通じもしないため、嫌々工場へ電話しました。

電話代はこっち持ちですし、電話代がお高かったあの頃、困ったものです。

工場に電話をした相手は「何となく縫えばいいのよ」というので、より驚いてしまいました。

 

地の目が狂った裁断

プリンセスラインはこのような縦の切り替えがあるデザインです。

Aラインワンピース
チャイナボタンの下、脇からバストの縦に切り替えが見えますか?

プリンセスラインはその名の通り、曲線美を出すのに有効なデザインです。

Aラインワンピース

背中にファスナーのあるプリンセスラインのワンピースの型紙
こちらのUSAKOさんのコスプレ衣装の型紙を販売されています。

縦長に前後で6枚を縫い合わせるワンピースで、裾が広がっているため、スカート部分は斜めになります。
ワンピース

ブラックフォーマルでも6枚接ぎのワンピは、良く使われるデザインで、私も子供たち全員にこのスタイルの袖なしブラックフォーマルを着せてました。

 

Aラインワンピースのスカート部分が大変である理由

その時のワンピは、袖ぐりの途中から脇の布があり、袖もありました。

オードリー・ヘプバーンが粋に着てそうな、ウエストのキュッとしまった、裾は朝顔が花開くフレアーの、ちょっとクラシックな素敵なデザインです。

「その高価な生地を、なーーーーーーんてことしてんだよっ!!!!! 」

曲線のデザイン線には、ウエストラインの合印もなかったのです。
つまり。

驚くことに、バストラインから曲線でウエストへキュッと細くなって、裾へパーーっと開くデザインの上から下まで、全く合印がありません

「どーーーーやって、縫うんさ??・・・」

腹が立つし、あの頃は感情で怒っていたから、怒髪天を衝く勢いだったけども、知りもしない工場さんが相手だし、苛立つ気持ちを抑えて、「どうやって縫われているんですか?」とお尋ねしたのを覚えています。

もっと驚愕の答えが返ってきた。
「2~3着縫ったら感覚が分かるだろう?その後はその感覚で縫えばいいんだ!」

吐き捨てるように言う言葉が憎たらしくて、でもその内容が脳にしみわたるほどに口がパクパクします。
感覚が分かるまでの2~3着はどうするんだって突っ込みはともかく、感覚で縫えるものと縫えないものとあって、Aラインのワンピースだけは感覚ではなく正確に縫わないといけない部類なのにです。

ちゃんとした仕事をしていたら、きちんとこうして縫ってくださいと言えるし、ちゃんと裁断をしたものを「どうしてできないんだよ、ちゃんと縫えよこら!」と怒られます

私なら、怒る。
自分の裁断したものを、縫う方法を問われてへそを曲げるなんて。

「上から下まで合わせる場所もなく、全部を感覚でいい加減に縫えという事ですか?」
黙っていたかったのだが、腹の虫がおさまらず、言葉が先に出た。

電話は、当然のことながら、最悪の後味で切れてしまいました。

裁断が出来ない接着芯が貼られた生地では、型崩れする運命にしかない

ところが。また、電話をしなければならなくなりました。
首周りの見返しを接着芯で貼ってあるのだが、その大きさがてんでバラバラだからです。

接着芯は必ずしなければならない方程式があって、私の講座でもしつこく縦と横と唱えています。
縦と横をそろえることが絶対です。

裁断するハサミよりも、縦と横を正確にするのは真剣にやるべきです。
少しくらいハサミが引っ張っちゃったり、ズレちゃっても、縦横が正確であれば、縫う時に織り糸で判断が付くからです。

 

接着芯は生地に固さを持たせ、デザインの形状を助ける大切な役目があります。
つまり、頼りになるしんばり棒を持たせる、一番大事な命運を握っているのが接着芯なのですが…。

どんなに神経を使っても、接着芯が上手く貼れなかったら、型崩れは回避は回避不可能で、崩れ始めてしまうリスクもあります

それを、大人服の膝丈まであるワンピで、上から下まで合印の一つも持たせず、全部をいい加減に縫い合わせるしかないという乱暴さで裁断されたものが届いちゃったのです。

型崩れどころか、こんなのでは形にすることも難しいですが返品は出来ません
しかも出来上りに責任を持つのは、生産した工場という不文律があります

私がどんなに裁断が悪いと言っても、縫った責任は取らなければならないので、究極的な窮地に30着もハマってしまったです。

もはや工場と話をする時間の無駄さに腹が立って、2度と電話をせず、どう対策をするのか必死でした。

裁断でゆがまされたAラインワンピースに息吹を吹き込む

仕方ないので、ウエストと思われる場所を真横に1着ごとに設定し、左右で上と下が3㎝強、ゆがんでいるのを、縫い代の範囲内で精一杯整えてやる人海戦術で対処しました。

メーカーから請け負う場合は、仕様書に指定された着丈の数値に、±1cm以内しか認められていません。
ワンピでも仕様書に指定されている着丈から±2cmはNGとされます。

この時、私はTさんに即刻電話を掛け直して、押し込みで入れた責任を取らせることにしました。

「許容範囲を 【 ±2cm~3cm 】に拡大して認めて欲しいです。
そうじゃなければ、私はこの仕事は1本も縫わないで送り返します」

と強固に主張しました。

工場側にどういうことなのか問い合わせが入り、すったもんだの挙句、どうしようもないという事もあって±3cmの条件を何とか押し込めたのは不幸中の幸いでした。

私は「それだけの事を言うんだから、よっぽどの物を縫うんだろうな?ふざけた物を納品したら、どうなるのか分かってんだろうな?」という、非難とプレッシャーが渦巻く中で仕事を始めることになったのです。

Aラインワンピース

ウエストは一番幅が短いため、上下に逆三角形のプリンセスAラインで、砂時計の形をしているから真横に設置がしやすい場所です。
です。

ウエストの織り糸を真横に決めて、静かに上下の生地を整え、裾と肩に出るゆがみを出来る限り少なくし、裾を切って、肩を切り、歪みを少なく直しました。

その過程で、必要なところに必要な合印を入れて、きちんと砂時計の形状になるように、基盤を1枚1枚整えたのです。

この作業だけで30着で3日も費やしました。
日数と手間暇はかかっても、合印もなく縫い合わせるよりはずっとましですし、自分の手を汚くさせたくなかったので、その分の時間を作る徹夜も苦になりませんでした。

Aラインワンピースを納品する先は百貨店

そして無事に約束通りの日時で、完納する日がきました。
翌日には百貨店さんの店頭に並ぶほど、非常にタイトな状況にまでなったのですが、何とか全着仕上げて出荷しました。

百貨店さんというのは徹底したお客様第一主義を貫くため、実に残酷なことを平気でする部分があります。
お客様第一主義に反した、業者やメーカーへは当然厳しいものになります。

お客様本位の姿勢を崩されたときに、もの凄いことになってしまう裏話もないわけではありません

アパレルメーカーにとって、百貨店さんを怒らせるようなことは絶対にできない事情があります。
店頭に目立つように並べてもらえる権利を勝ち取るために、バイヤーの担当さんにどれほど日常から神経を使い、どれほどの苦労を強いられて、そのシーズンの一番の席を手に入れたのに、その日の朝に品物がないなど、あっていいはずがないからです。

百貨店さんにとっても、お客さまが来店されている間は、展示を動かせません。
私もネット販売をしているときに、伊勢丹さんの催事に出店もしたのですが、夜と早朝の僅かな時間にレイアウトを変え、死に物狂いでありました。

何はともあれ、商品の納品が間に合わないという、最悪の事態は回避できてほっとした翌日のことです

Aラインワンピースから大クレームの嵐

ほっとしたのもつかの間。

翌日に、Tさんから電話がかかってきました。

「小川さんっ!!!!!!! あんた何をしたんだっ???」

私は余裕そのものだ。「何がって、うちのキレイに縫えてるでしょ?」

「小川さんが縫ったのだけ、裾がちゃんとしてるんだ。
30着だけ。

それも全部小川さんが縫ったのだけだって調べたらわかったんだぞ!

他店からは大クレームなのに、小川さんのだけは真っすぐなんだよっ!」

ニヤニヤしましたね~~。
当たり前です。
私を怒らせた工場へ、何が正しいのか分からせてやるとばかりに、最大の修正を加えて、全力でゆがみを取る縫製をしたのですから、当然の結果です。

あっちにもこっちにも向いて、てんでバラバラな大きさで接着芯が貼られた見返しを取る生地は、1枚、2枚の少ない枚数で、きっちり形になるように、縦横を整えられる範囲で正確に裁断しました。

手間を惜しんで裁断した成れの果てを、蘇生させるために本気で自分の経験の全てを注ぎ込み、息吹を吹き込んだのですから出来上がりはいいはずに決まっています。

結果は最初から分かっていました。
私が縫ったのだけ飛びぬけて良いものが出来、工場の縫ったのが型崩れするのは最初の裁断を見ただけで理解できていました。

とはいうものの、予想が反しなかったことに無念さも募りました。
ダメダメな生産は心がズキズキ痛むからです。

Aラインワンピースのクレームの概要は次の通り。

百貨店さんが言うには、スカートの部分がおかしい。

マネキンに着せると、咲いた朝顔の逆さの形をする裾が、ふわっと全体に広がらない。
脚が朝顔の中心になっていてこそ、Aラインワンピースの価値があるのに、何で?

  • 前に傾いて、ふくらはぎにピッタリくっついてしまうものがあったり、
  • 逆に膝にペタッとくっついて、フレアーが後ろへだけしか向かないというものも、
  • 中には、全体でねじれていて、朝顔に花開いてないものさえある

さすが、感覚オンリーで縫うだけの事はあり、全く統一もない悲惨な状態だったそうです。

ワンピース

この形が、風に吹かれているように傾いていたら、大クレームが出ますよね。

そんなAラインワンピースは、12万円で販売されました。
お読みになられている皆さまも、試着したときに脚が中央に来ているかどうか、お買い物の時は十分に気を付けてください。

後日、裁断をちゃんとしないからこうなったんだと、Tさんが私の話をまた聞きで、工場へ苦情に行ったそうです。

工場は「そんなに裁断が小川ってやつのだけ良いのなら、あんたの所の仕事は全部小川に裁断させたらいいだろう!」と逆切れしたんだというから、猛々しいことこの上ないです。

裁断を担当していた夫と、その話で大爆笑したのは言うまでもありません。

「合印で縫うことも出来ないのだから、裁断をいくら良くしてもムリ?」

押しの強いTさんに恩を売ったし、それ以降の仕事が取りやすくなったのは言うまでもないことです。
仕事がしやすいというのは、(小川がダメだというのならダメかもしれない)と感じてくれるとタイムアタックしているときは非常に助かるからです。

フレアースカートは手で引っ張って、伸び分を考慮する

この時のピンチがどうしてこんなに酷かったのか、私はマダム花井さんで大目玉を食らったときから、たどり着いた答えを持っていました。

フレアースカートは天地を逆にして裁断してはならないということです。

修業時代にマダム花井さんのバイヤススカートで、どうにもならない苦労をしましたが、どうしてあんなに縫えなかったのだろうとずっと頭にこびりついて離れませんでした。

原因を探すうちに、もしかして天地を逆にして裁断したのかもしれないと思うようになっていました。
自分でも仕事でAラインが来た時に試してみて、この答えが間違いがないだろうと考えていたので、ヘルプで入った仕事でしたが、実践で生かせるよいチャンスにもなりました。

全部を解体し、1枚1枚に合印を入れて行く作業は、天地がてんでバラバラになるリスクがあります。
敢えてそれをやっても良いだけの経験を、マダム花井さんのバイヤススカートで培った経験があったればこそです。

Aラインワンピースでそれまでの経験をフル稼働させ、伸びの違う生地を傾かさせずに、まっすぐに縫い合わせることが出来ました。

裁断をやり直したのも大きな要因ですが、マダム花井の大目玉は、十数年後に花を咲かせてくれたのです。

この動画は洋裁が自宅で学べる365回講座の316回目からの抜粋です。
縦方向の後ろ中心を指で引っ張って、左右に差がないかどうかを確認しています。

バイヤス地のスカートで斜めに伸びる場合でも、右手で同じように引っ張って、前後左右の縫い合わせをウエストから縫っていきます。

伸び分は裾へ流し、寸法の縫い合わせよりも、生地の伸びたい分を優先します。
指で引っ張り、緩める。

引っ張ってゆるめる。
これを繰り返して何度か伸ばしてみて、ちょうど良い場所を探します。

裁断の時に天地が逆転してしまった素材でも、伸び分をちゃんと考慮してあげると、生地はおとなしくなってくれます。
暴れるのは、暴れたい要素があるからですね。

強い意志でピンチをチャンスに

自分の手を通った子たちは、きちんとした形に育ててやると強い意志を持って縫い、こういうピンチが来た時にはチャンスだと考えて、少し無茶をしてでも自分の力量を全部投入して、結果を出すことをお勧めします。
でも、ちゃんと自力の範囲を守らなきゃダメですけどね。

チャンスはいつどこでやってくるかわかりません。
準備はいつ始めてもいいし、今すぐにも開始することが出来ます。

基礎をしっかり理解することが洋裁の全てです。

努力を継続した者を、その力で得た技術は決して裏切ることはしません。

自分自身の仕事に神を宿せた経験値は自転車と同じで、他のどんなものにも使うことが出来るし、細部にこだわる細心の注意を自分に課すことは、自分をコントロールする何よりものパワーを得ることになるからです。

長い長い話をお読みくださってありがとうございました。

2016年に書いた記事です。
画像や動画など、内容をお伝えするための素材がなくて、いままで掲載できなかったものです。

洋裁が自宅で学べる365回講座で言いたいことの本質が、この記事にあります。

一人でも多くの方に、洋裁の基礎を知っていただき、夢を形にする喜びが伝わればいいなと願ってやみません。

やっとこの記事を掲載できるところまできて、ほっとしています。

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